舞台裏

後日談を一つ。

76年、私は一つの驚くべき事実を確認した。大統領専用機であるエアフォースワンで、キッシンジャー国務長官と同行記者団が非公式会見を開いた時だった。当時はロッキード事件に突然巻き込まれた日本の田中角栄首相の運命に外国記者たちの関心が集まっていた時だった。

記者たちはキッシンジャーにかみつき、ぶらさがった。

「田中は長続きしますかね?」

キッシンジャーは大変傲慢な姿勢で答えた。

「田中程度なら、いつでも取り替えられる」

瞬間、私はひどくうろたえた。キッシンジャーは言葉を続けた。

「彼はあまりにも生意気だ。米国の後を追って日中関係を改善する程度ならよいが、米国を差し置いて日中関係を改善してしまった」

73年、米国は米中関係を正常化したが、台湾との関係を断ち切りはしなかった。中国に対する地雷を残したわけだ。しかし、米中正常化作業を鋭く注視していた日本は、黄牛の頭に乗っかったネズミが千里の道を行き着くやいなや先にゴールに飛び降りた、というふうに台湾と断交し、日中関係を一足早く正常化してしまった。田中が生意気だというキッシンジャーの言葉は、まさにこのことを指しているのである。

私は、キッシンジャーに尋ねた。

「ヘンリー、ロッキード事件もあなたが起こしたんじゃないのですか?」

私はいまだにその時、彼の答えた表情と抑揚を忘れることができない。

「オブ・コース(もちろんだとも)」

日本の国会を死ぬほど騒がせていたロッキード事件の情報は、まず米国議会で発覚した。ロッキード社から田中が受け取った金はわずか300万ドル(?)。普段、日本の政治家たちが受け取っている政治資金の規模からすれば、そんなにたいした金額でもない。しかし、いつもそうであるように、収賄が事実と確認され、マスコミと国会が乗り出せば問題になる。キッシンジャーは田中問題について、まるで財閥グループのオーナー会長がサラリーマン社長を一人クビにしたかのような口ぶりで言った。

文明子著、阪堂博之訳 『朴正煕と金大中 -私の見た激動の舞台裏-』、共同通信社、2001年、189~190ページより。

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昨日昼間、来日中の韓国関係者といろいろ話をしていたら、在米韓国人ジャーナリストの文明子氏の話題が出た。かの御仁、フィクサーとしても多方面でご活躍ですが、そう云えば最近ほとんどお名前を聞きません。

どうされているのでしょうか?